素起こし・ケバ取り・整文の違いとは?文字起こしの種類と選び方
素起こし(逐語)・ケバ取り・整文の違いを、同じ発言を3通りに起こした例で解説。法律、研究、報道、字幕など用途別に適した文字起こしの種類と選び方を紹介します。

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素起こし(逐語起こし)は、「えー」などのフィラー、言いよどみ、言い直し、繰り返しを含めて、話されたとおりに記録する文字起こしです。ケバ取りは話し手の言葉を残したまま、こうしたつまずきを取り除いて読みやすくします。3つ目の整文はさらに踏み込み、わかりやすさのために文章を書き直します。どう話されたかが重要な場合(法律関係、会話分析)は素起こし、ほとんどのインタビュー、研究、字幕にはケバ取り、公開用の文章には整文を選びます。
この記事では、それぞれの種類の定義、同じ短い発言を3通りに起こした例、比較表、各種類が必要になる場面、選び方のチェックリストを紹介します。
素起こし(逐語起こし)とは?
英語の「verbatim」は「一語一語そのまま」という意味ですが、文字起こし業者や研究者はこの言葉を3段階の細かさに使い分けています。日本語でも素起こし、ケバ取り、整文といった呼び名がありますが、業者やスタイルガイドによって定義が少しずつ違うため、依頼や作業の前に定義をすり合わせておくと安心です。
素起こし(英語ではtrue verbatim、strict verbatim、full verbatimとも)は、聞こえるものをすべて記録します。すべての言葉、「えー」「あのー」、言いよどみ、言い直し、繰り返された言葉、途中で終わった文、そして通常は[笑][咳](間)のような話し声以外の音や間も書き取ります。文法も話されたままにします。
ケバ取り(英語ではclean verbatim、またはintelligent verbatim)は、話し手自身の言葉と文の組み立てを残しながら、意味に何も加えないフィラー、言いよどみ、言い直し、繰り返しを省きます。ここで、話し手の発言を言い換えたり「より良く」したりしてはいけません。
整文(英語ではedited transcription、edited clean、light editingなど)は、さらに文法を直し、まとまりのない文を引き締め、書き言葉として読めるように語順を変えたり要約したりすることもあります。記録されるのは言葉そのものではなく、意味です。
研究の分野によっては、第4の段階として、タイミング、発話の重なり、イントネーションを記号で表す詳細な書き起こしを加えることがあります。会話分析で使われるジェファーソン式の表記法がその代表です。こうした表記のルールは、質的研究のための文字起こしのガイドで解説しています。
素起こしとケバ取りの違い:同じ発言を3通りに起こした例
インタビューの4行の抜粋を、それぞれの種類で起こしてみます(Iは聞き手、Pは参加者)。
素起こし
I: それで、えー、どうして看護師に……どうして看護師になったんですか?
P: あー、まあ、なんていうか、それは……それはほとんど偶然で、ですね。[笑]
P: 母が看護師で、で、私……私は絶対やらないって決めてたんです。
P: でも、えーと、大学を出たあと、私は……私はなんか、こう、ふらふらしてて。(間)
ケバ取り
I: どうして看護師になったんですか?
P: まあ、それはほとんど偶然で。[笑]
P: 母が看護師で、私は絶対やらないって決めてたんです。
P: でも大学を出たあと、なんかふらふらしてて。
整文
I: 看護師になったきっかけは何ですか?
P: ほとんど偶然です。母が看護師で、同じ道には進まないと
決めていましたが、大学卒業後、進路が定まらずにいました。
何が変わったかに注目してください。ケバ取りでは「えー」「あー」「なんていうか」「こう」や、繰り返された「どうして看護師に」「私は」が消えていますが、「ふらふらしてて」「決めてたんです」といった話し手のくだけた言い回しは残っています。[笑]を残すかどうかはスタイルガイド次第で、ケバ取りの多くのガイドでは、意味を変える場合にだけ言葉以外の音を残します。整文は短く滑らかになりますが、もはや参加者自身の声ではありません。
比較表
| 素起こし | ケバ取り | 整文 | |
|---|---|---|---|
| フィラー(えー、あのー、なんか) | 残す | 削除 | 削除 |
| 言いよどみ・言い直し | 残す | 削除 | 削除 |
| 繰り返し | 残す | 強調のための繰り返し以外は削除 | 削除 |
| 文法 | 話されたまま | 話されたまま、言い間違いも通常は残す | 修正する |
| 俗語・方言 | 残す | 残す | 標準語に直すことが多い |
| 言葉以外の音・間 | 通常は記録 | 意味がある場合のみ | ほとんど記録しない |
| 読みやすさ | 最も低い | 良い | 最も高い |
| 作成・確認にかかる時間 | 最も長い | 中程度 | 中程度〜長い(判断が必要) |
| 主な用途 | 法律関係、会話分析・談話分析、言語学 | インタビュー、テーマ分析の研究、会議、ポッドキャスト、字幕 | 記事、報告書、書籍、Webサイトの文章 |
種類ごとに求められる場面
法律・コンプライアンス
証言録取、審理、警察の取り調べ、保険金請求、証拠として使われる録音では、通常は素起こしが求められます。答える前の間、言い直し、「はい……いえ、すみません」といった発言は、供述の受け取られ方を変えることがあります。それを削るのは編集上の判断であり、文字起こし担当者がしてよいことではありません。正確な要件は裁判所、国・地域、そして文字起こしを依頼する側によって異なるため、その指示や書式のルールに従ってください。日本の裁判では、速記や録音反訳によって作られる調書に独自の作成ルールがあります。
学術研究・質的研究
方法論によって決まります。会話分析、談話分析、言語学の研究では、多くの場合は記号を付けた素起こしが必要です。テーマ分析、応用研究、ほとんどの政策研究では、参加者がどう話したかよりも何を話したかに焦点があるため、一般的にケバ取りを使います。どちらを選ぶにしても、文字起こしの前にルールを書き出し、論文の方法の章に記載しましょう。
報道・メディア
記者はふつうケバ取りの原稿をもとに作業し、引用する前に音声に戻って確認します。直接引用は実際の発言と一致させる必要があり、フィラーを削ることは一般に許容されますが、言葉を変えることは許されません。長い特集記事では、引用を録音と照らし合わせる限り、整文した原稿が読みやすい資料として役立ちます。録音から引用までの流れは、インタビュー文字起こしのガイドで解説しています。
字幕・キャプション
字幕はほぼ必ずケバ取りか軽い整文です。視聴者が1つのキューを読める時間は数秒しかなく、放送局のスタイルガイドでは読む速度や1行の長さに上限が設けられているため、場面や登場人物にとって意味がない限り、フィラーや言い直しは削ります。聴覚障害のある視聴者向けの字幕では[ドアが閉まる音]のような音の説明を加えますが、これは素起こしのフィラーとは別の種類の情報です。書式については、SRT・VTT字幕ジェネレーターのガイドをご覧ください。
ビジネス・会議・ポッドキャスト
会議のメモ、ポッドキャストのショーノート、顧客インタビューは通常ケバ取りで、そのあとに要約を付けることがよくあります。こうした場面では、素起こしにしても読む時間が増えるだけで、得られるものはありません。
AIによる文字起こしの特徴
自動文字起こしの結果は、これらの種類にきれいに当てはまるわけではありません。どのような出力になるのかを知っておくと役立ちます。
- フィラーは消える傾向があります。 実際には、Whisperクラスのモデルは「えー」「あー」や繰り返しの言葉を省くことが多く、話された言葉そのものよりも、話し手が言おうとしたことに近いテキストになります。CrisperWhisperの論文(Interspeech 2024)の研究者は、標準のWhisperが多くのフィラーや繰り返しを取り除いてしまうと指摘し、それらを残すために特別に調整したモデルを作りました。OpenAI自身の音声認識ガイドでも、「フィラーを残すこと」がプロンプトで調整できる項目として挙げられており、それが標準の動作ではないことがわかります。
- 結果はケバ取りに近いものの、完全に同じではありません。 モデルは言い直しや言いかけの単語を滑らかにしてしまうこともあれば、たまたま認識したフィラーを残すこともあります。出力はスタイルガイドに従っているのではなく、ばらつきがあります。
- 言葉以外の音や間は通常記録されません。 ほとんどのツールは[笑]や時間付きの間を記録せず、ジェファーソン式の表記を安定して出力できるツールは、私たちの知る限りありません。
- 句読点は推測です。 文の区切りや読点は推測で付けられるため、長く続く回答では意味が微妙に変わることがあります。
つまり、AIの下書きはケバ取りの出発点としては優秀ですが、素起こしにするには人による確認が必要です。音声の品質も重要です。マイク、発言の重なり、なまりが下書きにどう影響するかは、文字起こしの精度を上げるコツで説明しています。
文字起こしの種類の選び方:チェックリスト
文字起こしを始める前、または依頼する前に、次の質問を確認してください。
- 文字起こしは証拠や法的な手続きに使われますか? 素起こしにし、それを求める側の指示に従います。
- 分析で人の話し方を見ますか(ためらい、言い直し、話者交替など)? 素起こしにし、必要に応じて記号を付けます。
- テーマ、引用、決定事項など、主に話された内容が必要ですか? 通常はケバ取りで十分です。
- その場にいなかった人が読む、あるいは公開する文章ですか? 整文版を検討し、元資料としてケバ取りの原稿を残しておきます。
- 字幕用ですか? ケバ取りにしたうえで、読む速度に合わせて行を短くします。
- ルールを書き出しましたか? フィラー、俗語、言葉以外の音、聞き取れない箇所、話者ラベルの扱いを一覧にし、すべてのファイルに同じルールを適用します。
- 誰が文字起こしを音声と照らし合わせますか? どの種類でも、少なくとも一度は誰かが聞いて確認するべきです。
AIの下書きを目的の種類に仕上げる
実用的なのは、自動文字起こしから始めて手直しする流れです。たとえばAudiotextaでは、ファイルをアップロードするかマイクから録音すると、話者ラベルとタイムスタンプ付きの下書きが得られます。それを、再生中に単語がハイライトされ、どの単語をクリックしても音声のその位置に移動できるエディタで修正できます。そのため、素起こし用に抜けたフィラーや間を書き足したり、ケバ取り用に残ったつまずきを削ったりする作業が速くなります。30分までのファイルに対応した無料プランで、Webアプリからアカウントなしで試せます。
文字起こしが選んだ種類に合ったら、次の作業に必要な形式で書き出します。読むための資料にはDOCXやPDF(Proプラン)、分析ソフトにはTXT、字幕にはSRTやVTTを使います。どの種類とルールで起こしたかを各ファイルにメモしておけば、あとで読む人も、そのプロジェクトで「素起こし」が何を意味していたのかを正確に理解できます。
よくある質問
素起こしとケバ取りの違いは何ですか?
素起こし(英語ではtrue verbatim)は、「えー」「あのー」などのフィラー、言いよどみ、言い直し、繰り返し、多くの場合は間や話し声以外の音まで、聞こえたものをすべて記録します。ケバ取り(clean verbatim)は話し手の言葉と意味を残したまま、フィラー、言いよどみ、言い直しを取り除きます。
英語のintelligent verbatimはケバ取りと同じですか?
多くのスタイルガイドでは同じ意味です。intelligent verbatimとclean verbatimは、フィラーやつまずきは取り除き、話し手の言葉づかいや文法は残すという同じ軽い整理を指す2つの呼び名です。intelligent verbatimで明らかな文法の誤りまで直す業者もあるので、依頼先の書面のルールを確認してください。
法律関係の文字起こしにはどの種類が使われますか?
証言録取、審理、警察の取り調べ、証拠となる録音などの法律関係の作業では、ためらいや言い直し、正確な言葉づかいが重要になりうるため、通常は素起こしが求められます。要件は裁判所や国・地域によって異なるので、指定されたルールや指示に従ってください。
AI文字起こしツールは素起こしを作れますか?
標準の設定では作れません。Whisperクラスのモデルはケバ取りに近いテキストを出力する傾向があり、フィラーや繰り返しの言葉を省くことがよくあります。素起こしが必要な場合は、音声を聞きながらフィラー、言い直し、間、言葉以外の音を人が書き足す工程を見込んでください。
字幕にはどの種類が適していますか?
視聴者は話す速さで字幕を読む必要があるため、字幕は通常ケバ取りか軽い整文にします。場面にとって意味がない限りフィラーや言い直しは削り、放送局のスタイルガイドでは読む速度や1行の長さに上限が定められています。
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ファイルをアップロードするかリンクを貼り付けるだけで、数分で文字起こしが完成します。